2021.11.03 明石の海で起こっていること。タコ釣り餌木問題について、「村由丸」船長 村上正師さんに聞く。 明石の海で起こっていること シーズン期にはたこ釣りを目的にやってきた多くの釣り人で賑わう明石の海。 一方、海に放置される鋼やステンレスとプラスチックを使った餌木が問題になっています。 現状と課題について、明石の林崎漁港から出港する釣り船「村由丸」船長、村上正師さんに聞きました。 たこ漁のロープに餌木の山が絡まる。 明石たこ漁の漁場には、長いロープに等間隔で取り付けた壺が海底に並んでいます。そこに産卵のために蛸がやってきて、巣にします。 漁師がそのロープを引き上げて壺をあげようとすると、膨大な餌木が絡まってあがってきます。ものすごい量の餌木です。 若い漁師は餌木の鈎で怪我することもしょっちゅうあります。 これは、一般の釣人達が自分達の船で適当に流して投げ入れた、たこ釣りの餌木が根掛かりしてロープにからまったものです。 釣り糸がとんでもないところへかかり、回避する仕方がわからないので、切ってしまったもの。 餌木はそう高いものじゃないから、一般の釣人は屁とも思ってないのでしょう。でも、海の中は餌木でいっぱいなんです。 漁師が怪我する、ゴミを引き上げてしまうのも問題ですが、そのままにしてたら、大変なことになります。 餌木は、プラスチックやから腐ることないし、鈎も鋼やステンレスやから延々と残ります。さらに、鉛が取れてしたら、何十年かかることか。 意外と厳しい漁業のルール あまり知られていませんが、漁師はけっこうシバリがあるんです。鑑札があり、漁業権の範囲があり、獲っていいところ、いけないところがあります。 漁業をやるには、遊漁船であっても、鑑札が必要です。でも、それは普通にボート免許を取った人であれば、一日講習を受けるだけで、「マル釣り」の番号が書いたその看板が貰えるんです。実態を把握し、漁業者と線を引いて許可を出していませんでした。 ここ何年か前までは誰にでも安易に鑑札を出してきた兵庫県側もこれ以上は増さない方針とのことですが、既に増えすぎています。 また、漁業でも、網の鑑札、釣りの鑑札、引き縄の鑑札とそれぞれの鑑札が必要です。さらには、ちりめんの網、底引きも鑑札、もちろん、たこ釣りの鑑札があります。それらを、組合を通して、県から鑑札をもらって漁にでます。 しかし、そうした、遊漁船の鑑札、たこ釣りの鑑札も取らずに漁に出てる船が多々あるんですね。そうした状況を規制し、取り締まる動きも後手にまわっているのが現状です。 かつてのたこ漁と現在の問題 林崎の若い漁師は何も目印もなく、自分のしかけた蛸壺の場所がわかります。すべて、山だてしてやっています。いまは、GPSがあるから、すぐにわかりますが、漁師は昔から大体、自分の場所というのは決まってて、自分はどのあたりで、どれくらいの深さに蛸壺をしかけているのかということを、勘と山だてでわかってた。 いまは、蛸壺を仕掛けたという印となる浮き輪をロープの両端につけていて、それが目印になります。現に二見から江井ヶ島までの間には延々とウキが浮いている。一般の人達は、その浮き輪を目指してやってくるので、そこでトラブルが起こります。 漁師や遊漁船のプロであれば、根掛かりのようなトラブルも回避することができます。それを外す術もあるし、壺がある場所に気をつけて、餌木で壺やロープを引きずらないようにはかったり。でも、一般の方は船の操作はできでも、プロと同じようにやっていると、引きずりますよね。一般の人はそうしたことがわからないので餌木が切れようがおかまいなしです。 餌木の鈎をステンレスや鋼から鉄に 餌木の鈎は一般的に曲がりにくく、折れにくいステンレスや鋼です。そのために、根掛かりしても回収できず環境面では問題があります。そうしたことから、餌木の鈎は鉄にするのが理想です。根掛かりしても、鉄なら鈎が延びるため、餌木自体の回収率がいい。また、鉄なら錆びて朽ちるので環境面ではステンレスや鋼よりはいい。 根掛かりは鈎の角度によってリスクが変わります。鈎の角度が広いと根掛かりしやすく、角度が閉じ気味になっていると餌木が根掛かりしにくくなります。 また、鉄は曲がりやすい性質があります。でも、釣針としては十分な強度があり、3キロのたこも上がり、掛かったら、離れません。 だから、餌木の鈎は鉄の方がいいと漁師たちはみんな分かっています。何年も前から鉄に変えて欲しいと、メーカーの関係者さんに話していますが、個人的に感想を話してもどうしようもなりません。はりよしさんのような存在が業界にアプローチし、現状を発信してくれたら、変わるかもしれへんねん。うちのようないち釣り船屋が言うても届きません。 釣れる道具が使われる 釣人のたこ釣りは、かつてはてんやが主流でした。しかし、最近は餌木を使うの釣人がほとんどです。よく釣れるし、安いので当然だと思います。誰でも経済的な状態、ふところ事情が第一。正直なところ、環境問題を意識して釣りをする人は少数でしょう。この流れを変えるのは簡単じゃないかもしれません。 ただ、海の問題は最終的には次の世代にツケをまわすことになります。個人的な損得を超え、将来のことを考えることは大事やと思います。それは我々、遊漁船にたずさわる人達みんなが解っていることです。 まずは、海に落ちても自然に戻りやすいように鈎は鉄製にすることから始めてはどうでしょう。鉄の鈎なら根がかりしても、仕掛けの回収率が良いです。鈎が海底に残されても、ステンレスと比べると早く分解されます。そして、餌木ではなく、改良を重ねててんやを、餌木より釣れるように進化させます。てんやを竹製などにすれば、根掛かりしてもプラスチックが海にたまることはありません。そして、海の健全性、環境問題についてみんなで情報を共有し、意識を持つようにすれば、少しくらい高くても、みんな海に優しい道具を使うようになるんじゃないでしょうか。 村吉丸 社長 はりよしとは永年の付き合い。 大きな漁港であると同時に、釣り場としても知られる明石の林崎漁港。 村吉丸は明石海峡ジギング、鯛ラバ、タコ釣り、ショウサイフグを狙い出港する。 取材当日に釣れたまだこ。今年は昨年に続いて不漁だったそうだ。 カラフルなプラスチック製の餌木。たいていの釣り人がこれを使う。 左)はりよし代表 岸本敬太 右)村吉丸代表村上正師さん 明石釣り船 村吉丸のWebサイトはコチラです。 https://murayoshimaru.com